映画と災厄
生にフラッシュを
映画に端を発した自伝的エッセー55篇!
ウーファ映画、リーフェンシュタール、ゴダール、ローレル&ハーディ、ウィリアム・キャッスル、ビートルズ……。オーストリア戦後文学の奇才アイヒンガーが、想起に向かって飛ぶ!
イメージ喚起力に富む言葉の連なりは、思わず連像的と言いたくなるほどで、読者はエッセーを読みながら、映画を観ているかのような錯覚にとらわれるに違いない。
――「訳者あとがき」より
【目次】
Ⅰ 映画と災厄
映画と災厄
私たちの足元の地面
アルト・アウス湖 一九三〇年
クリスマス 一九二七年、一九三七年、一九四一年
ゲルマニストの娘 一九三四年
炭商人の娘 一九四一年
アルト歌手の娘 一九四二年
税理士ハインリヒ・ザブリク 一九四二年
薬局事務所 シュヴァルツェンベルク広場 一九四三年
河岸 一九四四年
ウィーン 一九四五年 終戦
Ⅱ 消失の日誌
「消失の日誌」への序論
別れの練習
ジャーマン・イメージ
リーフェンシュタール女史
フォンターネの景域――マリアンネ・ホッペ
ホールヴェク通りのリア・デ・プッティ
「街頭写真家の書割」
滑稽の超然性
エディ・コンスタンティーヌ
阻まれた夢追い人
「ビル・ブラントが、ブロンテ・カントリーを訪問する」
想起の像
想い起こすときの色彩
一つボートの二人
締めだされた者たちのための椅子
存在の降雪
未来のスケッチ
二発目の銃声は?
運に恵まれず、災厄には見舞われず
世紀の写真
秋のウィーンにビートルズ
アイム・グラッド、アイム・ノット・ミー――ボブ・ディラン
「若さ」という名の穴あけパンチマシーン
生の街並み
決断と破滅の瞬間々々
レールを敷く女――カラミティ・ジェーン
「おまえは明日には戻るのに」
「のぞき見する少年たち」『ロンドンのある夜』
「自然史博物館」
死体の誕生
値打ちのある勝利を、誰がとらえる?
民間伝承――国家の気象状況
国喪とケーブルカー事故
違うものを求める気持ち
「公園の春」
おまけのホラー映画は要らない
「ひとりぼっち」
ティー・フォー・ワン
テムズ河畔のゲストハウス
名もなき人々の墓地
消失の構築
「ライオンズのニッピー(ミス・ヒボット)」
映画なしの聖金曜日
第三の男
訳者あとがき
【著者紹介】
イルゼ・アイヒンガー
1921年、ウィーンに生まれる。第二次世界大戦後、大学で医学を学び始めるものの、執筆に専念するために中退。唯一の長編小説『より大きな希望』(1948/60年)は、異彩を放つ戦後文学として広く読み継がれている。短編「鏡物語」(『縛られた男』所収)に与えられたグルッペ47賞(52年)を皮切りに、ネリー・ザックス賞(71年)、ペトラルカ賞(82年)、偉大なるオーストリア国家賞(95年)他、数々の文学賞を受賞。80年代以降は執筆活動を休止していたかのようであったが、今世紀に入り、本書をはじめとする自伝的エッセー集を発表している。2016年、ウィーンに没する。
【訳者紹介】
小林和貴子
慶應義塾大学、ハンブルク大学で学ぶ。現在、学習院大学文学部ドイツ語圏文化学科准教授。二十世紀ドイツ語圏文学、オーディオドラマやオーディオブックを研究。訳書に『より大きな希望』(東宣出版)。