絵物語
現代イタリア文学の鬼才ブッツァーティがペンと絵筆で紡ぎ出す奇妙で妖しい物語世界
わたしにとって絵を描くことは、趣味ではなく、本職である。書くことのほうが、わたしにとっては趣味なのである。だが、描くことと書くことは、詰まるところ、わたしには同じことだ。絵を描くのも、文章を書くのも、同じ目的を追求しているのだから。それは物語を語るということだ。
——本書「ある誤解」より
【目次】
掌編「身分証明書」
絵とテクストで物語る「絵物語」54編
エッセイ「ある誤解」
解説・年譜
【解説より一部抜粋】
彼(ブッツァーティ)の生涯にかけての仕事はけっして小説と絵画に分けられる類のものではなく、絵画と長編小説および短編の間には本質的な血縁があり、したがって彼の幻想創造のさまざまな局面を学ばなければ、彼を正しく理解することにはならぬ。かくしてブッツァーティはあるときはペンを握り絵筆をとり、いわゆる二つの武器を用いて同一の不安を表現せずにはいられないのである(マルセル・ブリヨン『幻想芸術』坂崎乙朗訳より)。
【著者紹介】
ディーノ・ブッツァーティ
1906年、北イタリアの小都市ベッルーノに生まれる。ミラノ大学卒業後、大手新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」に勤め、記者・編集者として活躍するかたわら小説や戯曲を書き、生の不条理な状況や現実世界の背後に潜む神秘や謎を幻想的・寓意的な手法で表現した。現代イタリア文学を代表する作家の一人であると同時に、画才にも恵まれ、絵画作品も数多く残している。長編『タタール人の砂漠』(1940年)、『ある愛』(1963年)、短編集『七人の使者』(1942年)、『六十物語』(1958年、ストレーガ賞受賞)などの小説作品のほか、絵とテクストから成る作品として、『シチリアを征服したクマ王国の物語』(1945年)、『劇画詩』(1969年)、『モレル谷の奇蹟』(1971年)がある。1972年、ミラノで亡くなる。
【訳者紹介】
長野徹
1962年山口県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院修了。イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学に留学。イタリア文学研究者・翻訳家。児童文学、幻想文学、民話などに関心を寄せる。訳書に、ピウミーニ『逃げてゆく水平線』、ピッツォルノ『ポリッセーナの冒険』、ソリナス・ドンギ『ジュリエッタ荘の幽霊』など。