小鳥たち マトゥーテ短篇選
はじめて出逢う世界のおはなし 1957−1967
悲しみ、死、少年少女のやわらかい心に爪を立てる現実。それらを一瞬にして光に変える、たわいのない噓と幻想。小説の魅力を一粒一粒に閉じ込めたような、繊細で味わい深い掌編小説集。(帯文/中島京子)
新しく村に赴任してきた若き医師ロレンソは、ある事情から、気がふれていると言われる女の家に一晩泊まることになってしまう。清潔で手入れが行き届いた部屋、美味しい食事とワイン、町で靴屋見習いをしているという一人息子の話を聞くうちに、彼は大地のようなあたたかさに心満たされ始めるが……「幸福」、過ぎ去りしある夏の淡くおさない初恋を詩情豊かに綴った「隣の少年」、人生に疲れ絶望を感じる寡婦の身に起こる摩訶不思議な出来事「噓つき」、心躍らせながら行ったお祭りで娘を襲う悲劇「アンティオキアの聖母」など、リリカルで詩的なリアリズムに空想と幻想が美しく混じりあう21篇を収録。二十世紀スペインを代表する女性作家アナ・マリア・マトゥーテ本邦初の短篇集。
【著者紹介】
アナ・マリア・マトゥーテ
1925年バルセロナ生まれ。二十世紀スペインを代表する作家の一人。1948年に小説『アベル家の人々』でデビュー。『北西の祭典』、三部作「商人たち」等、数々の著作で文学賞を受賞する。その後、二十数年のブランクを経て、1996年に中世を舞台にした長篇小説『忘れられたグドゥ王』を刊行。1998年にスペイン王立アカデミーの座につき、2010年にスペイン語圏で最も権威ある文学賞セルバンテス賞を受賞。2014年死去。
【訳者紹介】
宇野和美
1960年生まれ。スペイン語翻訳家。主な訳書に、アンドレス・バルバ『きらめく共和国』(東京創元社)、グアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』(現代書館)、マルセロ・ビルマヘール『見知らぬ友』(福音館書店)がある。絵本や児童文学の翻訳も多い。2007年よりスペイン語の児童書専門ネット書店ミランフ洋書店を営む。