反動分子
シムノン ロマン・デュール選集
これぞシムノン流エンターテインメント サスペンス溢れるミステリー
本書を今回選出したのは、中期シムノンならではの〝軽み〟を発揮しつつ、ジャンル小説愛好家の嗜好にも応え、当時のパリの様子も鮮やかに感じ取れ、読後の充実感も優れており、これなら多くの小説愛好家の皆さまにご満足いただけるだろうと考えたためである。「シムノンってこんな面白い小説も書けるのか!」と嬉しい驚きの笑顔が広まることを願う次第だ。——「解説」より
第二次世界大戦直前、1930年代後半のパリとその近郊を舞台に繰り広げられるテロリズム小説
ブリュッセルの小劇場で舞台監督助手として働くピエール・シャヴには、無政府主義者グループの主要メンバーという別の顔がある。ある日、活動仲間の〈男爵(バロン)〉がパリからやってきて、グループの新入りメンバーであるセルビア人の活動家K某が組織を掌握し、仲間を危険な過激派へと導き、近々無差別爆弾テロをしかけるという。しかも実行役はシャヴが目をかけてきたロベールだ。テロを止めさせるため直ぐパリに向かったシャヴだが、テロ計画の密告をうけた公安警察からは共謀者として疑われ追われる身となり、仲間からは裏切り者と見なされ、警察が動いているのも彼のせいだと思われてしまう……。シャヴは爆弾テロを阻止すべく、ひとりパリの街を奔走する。
【著者紹介】
1903年、ベルギーのリエージュに生まれる。十代半ばから地元紙の記者として旺盛な執筆意欲を発揮、1922年よりパリで作家修業を始める。多くのペンネームでコント、悲恋小説、冒険小説を次々と発表し、やがて謎解きものや犯罪小説も手がけるようになる。1930年に本名のジョルジュ・シムノン名義で《メグレ警視》シリーズの第一作を新聞連載、1931年から書き下ろしでシリーズ長篇を毎月刊行し、たちまち人気作家となった。1933年からメグレではない心理小説、《硬い小説(ロマン・デュール)》の長篇も精力的に発表し始める。第二次世界大戦後は北米に移住、その後は主にスイスで執筆を続けた。1972年に引退を表明し、以降は日々の想いを口述録のかたちで刊行していたが、娘マリー゠ジョーの不幸な死を受けて1981年に大部の『私的な回想』を発表、その内容は議論を呼んだ。1989年にローザンヌの自宅で死去、享年86歳。シムノン名義で書かれたメグレものは長篇全75作、中短篇全28作。ロマン・デュール長篇は117作といわれている。フランス語圏を代表する作家のひとり。
【監修者紹介】
1968年静岡県生まれ。1995年に『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。1998年に『BRAIN VALLEY』で日本SF大賞、2021年に『NHK 100分de名著 アーサー・C・クラークスペシャル ただの「空想」ではない』で星雲賞ノンフィクション部門をそれぞれ受賞。小説の他に科学ノンフィクションや文芸評論も手がける。2014年末よりジョルジュ・シムノンの作品を毎月一冊読んで感想を書くウェブ連載《シムノンを読む》を開始、2024年に連載100回を越え、現在も継続中。
【訳者紹介】
フランス語翻訳家。早稲田大学第一文学部卒。訳書にピエール・ルメートル『邪悪なる大蛇』(共訳/文藝春秋)、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(小学館世界J文学館)、ジョエル・ディケール『ゴールドマン家の悲劇』(共訳/創元推理文庫)、ピエルッチ&アロン『アメリカン・トラップ』(監訳/ビジネス教育出版社)など。